さよならポリテク

再就職先の出勤日が決まり、これまで都合3ヶ月半学んだポリテクを中途退所する事になった。

入所した当初は、50過ぎという年齢や体に障害があること、それに新型コロナの影響で徐々に薄くなっていく求人票に、ポリテクでの勉強にあまり期待を抱けず熱も入らなかった。

しかし、約30人の素人が集まって、何も無い状態から足場を組み…柱を立て…壁を作り…天井を張り…と、ひとつの模擬家屋作るに至って、仲間意識の高まりと共に就職活動にも精力的に臨めるように変化してきた。

その結果、このコロナ禍にあって契約社員ではあるものの早期就職が叶ったはポリテクのおかげともいえるだろう。
「Viva!!ポリテク」「ポリテクバンザイ」

カナヅチやノコギリ、ノミなどの大工道具の使い方に始まり、継ぎ手・仕口を作り、足場を立て、ある程度形になっている(プレカットされている)土台や梁、柱を立て、壁を張り、壁紙や珪藻土で装飾し、フローリングを敷き詰めて家屋を完成させる。

まるで文化祭の準備の如くなカリキュラムは、体力的にはきつかったもののとても楽しく行えた。

楽しかったのはいいが、その一連のカリキュラムが私の実際の就職活動に直接役に立ったかと言えば、建築とは何ら関係のない職に就いたこともあって、正直なところあまり役立ったとは言えないのが本当のところ…。
これを聞いたら講師の先生は悲しむだろうが…。

では、ここで過ごした時間が無駄となったのかというとそんなことはない。
ひとつの「模擬家屋を建てる」プロジェクトを、年齢も性格も違う皆の力で成し遂げたことは、これから勤めるであろう会社だけでなく、社会という共同体で生きる為に必要な事をいちいち気付かされる場となった。

人と協力することの大切さ…相手を思いやる気持ち…一人の力の小ささ…自分の未熟さ幼さ…などなど…

建てることが目的ではない…建てるまでの過程が大切なのだ…

50歳を超えてこのような「気付き」を得る機会はなかなか無い。
その機会を得ただけでもポリテクに通った3ヶ月半は有意義なものであったと言い切れる。

インターネットで検索をすると「ポリテクに通うことは時間の無駄…」「ポリテクでの知識は実際には役立たない…」などという否定的な意見が多い。

実際、50歳を過ぎたオヤジがこの職業訓練で学んだ建築の知識を武器に異業種転職ができるのかといえば世の中そんなに甘くない。可能性は宝くじに当たる確率よりはるかに低い。
そういう面だけ見れば否定的な意見もうなずけよう…。
しかし、だからといってポリテクを全否定する材料にはならない。

学んだ知識は日々の生活で役立つ事もあるだろうし、好奇心を惹起するきっかけになる。
それだけでなく、新しい人間関係を構築できる場にもなるし、ひとつのモノを協力して作ることで得られる満足感や達成感、他人との「絆」を見直したり自分の凝り固まった考えを見直すきっかけにもなる。

座学や実習だけではない。
キャリア支援の一環として否応無しにやらされる「自分のキャリアの棚卸し」では、じっくりと自分の過去を見つめ直し、その苦しみの中で「自分は何をしたいのか…どういう未来を構築したいのか…」の答えの一端を見つける事もできる。
そういう面においても、ポリテクに属して就職活動をすることには利点がある。

新型コロナが蔓延し、将来が見通せないだけでなく働き方それ自体も変革するであろう現在。
激しい変化に翻弄されカオスと化しつつある社会の中、ひとりで就職活動をすることは本当に困難な事だと思う。

「ポリテク」という共同体に属し、そのバリアに守られた中で仲間と共に就職活動をすることは、混とんとする今の社会を一歩外からの客観的な視点で見ながら仕事さがしに傾注できる。
それも一人の視点ではなく複数の視点で…。
このメリットは決して小さいものではないし、実際に私がこのメリットを生かして就職できた。
本当にラッキーだったと思う。

就職したことはゴールではなく改めて社会のスタートラインに立ったことに過ぎない。
あとはこれから先の長い人生のヒルクライムを、自分自身の力を原動力として孤独にひたすら走り続けるだけ。
そこには「ポリテク」の助けは無い。ポリテクで学び気づいた事を心に刻み実践するのみ…。

ありがとう「ポリテク」
そして、さようなら「ポリテク」

一人でも多くの人がここから新たな社会に旅立って行くのを切に願っている。

日常

Posted by chariketta