母の退院

「病棟内でコロナが蔓延してしまったため今日退院できますか?」
面会のつもりで病院に行ったら突然の退院宣告。

イヤイヤ…ちょっと待ってよ!と思いながらも、骨折が治ったら次はコロナですじゃあ話にならない…
ここは伝染る前にとっとと逃げ出したほうがいい…。

というわけで、2ヶ月余りに及んだ入院生活を終わらせて母親が自宅に戻ってきた。

年寄りにとって2ヶ月もの入院生活は体のあらゆるところを衰えさせるようで、杖を使って歩けていたものが歩行器が必要になり、耳はだいぶ遠くなり、認知機能は明らかに低下してしまった。

まあ、寝たきりになってしまった…とか、ボケがひどくなった…というわけではないので「よかった…よかった…」と言えるのだけれど、唯一困った事は下の世話だ。

まだ自分の意志でコントロールできるから嘆くほどではないのだけれど、トイレに行くまでの付き添いが必要だし、夜はオムツを当てなければならない。

90過ぎの父親にオムツ当てをさせる訳にもいかないから私の仕事となるのだけれど、これまでの生活介護に比べ身体介護となると一気にハードルが上がり、どこから手を付けていいのかわからない。

周りを見回せばもっと状態の悪い親の介護をしている人がたくさんいるので、あまり弱音を吐いたり愚痴を言うわけにもいかないけど、親の下の世話をする現実がいざ目の前に立ちふさがってみると複雑な心境にならざるを得ない。

新聞に時々折り込まれる「介護施設のチラシ」には「みんな笑顔で楽しい老後…」みたいな笑顔あふれる写真が載っている。
でもねぇ…実際はそんな笑顔を作っている精神状態にはなれないのよ。

笑顔が全くないわけじゃないけれど、その笑顔の下は複雑な感情が渦巻いているのだ。

本人の前では言えないけれど「トホホ…」である。

いやはや…順番とはいえ大変だ…介護って…。